今日の献立
新年あけましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりありがとうございました。
新年も変わらぬご愛顧をどうぞよろしくお願いいたします。

さて、毎年恒例のおせち料理解説です。
当店ではお値段据え置きでお受けしましたが、今回改めて物価の上昇を痛感した次第です。

日々のお弁当食材ではそれほど高価なものはありません。
ただ今回は高級品が多く、仕入れを始めた24日から、毎日衝撃を受けました。
特に高価な干し数の子、からすみ、車海老、伊勢海老、イクラ、天然鯛に天然ブリなど…
野菜では生の竹の子が極端に少なく、こんなに苦労した年は珍しかったです。

それでは前置きが長くなりましたが、こだわりの料理解説です。

【口取り】

〈干し数の子〉
私がおせちを作り出したのは約35年前からです。
以来ずっと干し数の子を仕入れています。
北海道の留萌で、国産のニシンを使って天日で干した数の子です。
今の主流は塩数の子です。
数の子にもかなりランク分けがありまして、その頂点にあるのが干し子と呼ばれる干し数の子です。
お値段は塩子(塩数の子)の5倍〜10倍。
1本が1,500円ほどもします。
塩子なら半日ほど水に浸けて塩抜きできますが、干し子は乾物で、約5日間ほど米の研ぎ汁で戻します。
近年はこの干し子を使う人は少なく、入荷も極端に少ない幻の数の子です。

〈京丹波黒豆〉
毎年仕入れる丹波の黒豆。
私は小田垣商店さんから新物の大粒を仕入れています。
まず一昼夜かけて水で戻します。
それから数回下煮し、12時間以上コトコト炊いて柔らかくします。
それから水にさらし、また炊きます。
壁に投げつけてペチャっとくっつくぐらい柔らかく煮えたら一度休ませます。
あくる日また火入れして、お砂糖を数回に分けて投入します。
黒豆は極端なことを嫌います。
水の温度や砂糖の濃度など、何事もゆっくりと進めてふっくらとシワのない黒豆になります。
因みに今回は沖縄の島ザラメを使って黒豆を炊いてみました。

〈イクラ〉
イクラは鮭の卵です。
ロシアのウクライナ侵攻や極端な円安、また鮭の不漁など、悪い材料に襲われた今回のイクラ。
秋の鮭の卵を醤油浸けにしたものですが、プチプチとした魚卵は子孫繁栄の縁起物です。
イクラ作りはあまり粒が大きなものは避けます。
これは過去に苦い経験があり、あまり大粒だと外皮が硬く、口に残って美味しくないです。
それからはやや小粒のものを仕入れています。
塩漬けにする年もありますが、近年は北海道産を選び、醤油漬けにしています。
色が鮮やかなのもおせちを華やかにしますね。

〈唐墨〉
カラスミとはボラの卵巣で、産卵期の秋から冬に出回ります。
生を仕入れて作っても良いのですが、今は完成品を信頼のある業者さんから仕入れています。
一腹が数万円はする超高級珍味で、塩漬けにした魚卵を数週間、天日で干したものです。
お味は濃厚で、よくチーズに似た香りだと表現されますが、私は似ていると思ったことはありません。(苦笑)

〈車蝦〉
暖かい沖縄から入荷の活けの車えび。
ダンボールにお行儀よく並んでいます。
昔はおが屑に入ってきましたが、今はありません。
去年も高くて驚きましたが、今年はそれ以上で再度びっくり!汗。
しかし海老のないおせちは考えられませんし、かと言って安い有頭海老では困りますし。
しかも中間のちょうど良い大きさの物が高く、おせちの需要が少ない小さいものと大きなものは割安になります。
生きた海老の背ワタを竹串で取り除き、調味したダシでサッと煮て、旨味を抽出します。

〈伊勢海老〉
伊勢海老とは一番の漁場だった伊勢にちなんだものです。
今では千葉が最大の産地ですが、やはり伊勢ものを仕入れました。
グゥーグゥー鳴くので、冷たい水で締めて調理します。
頭も味噌があり、汁などにすれば美味ですね。

〈花豆〉
今回衝動買いした紫花豆。
高級品ですが、その粒の大きさに驚かされます。
わりかし皮が厚いので、下処理をした後に煮含めます。
食べごたえがあり、存在感が強い花豆。
おせちと言えば黒豆ですが、まめに暮らせるようにというおせちならではの豪華な煮豆です。

〈鮑〉
毎年アワビは蒸し煮にしていましたが、今年は酒蒸しにしてみました。
より素朴にアワビの旨みを味わえます。
活きたアワビを長時間(約5時間)蒸すことにより、柔らかく、かつアワビ本来の旨味が味わえる一品です。
酒蒸しの肝も美味です。

〈勝栗金団〉
栗は毎年渋皮煮にするのですが、今回は勝栗を仕入れてみました。
秋の柴栗を乾燥させた勝栗は、勝つ!という縁起物とされ、特にお正月や受験シーズンに食されます。
乾物ですから水で戻します。
一晩水に浸けて戻し、竹串で薄皮を掃除します。
それから甘露煮にするのですが、馴染むのに時間がかかります。
特に弱火で加熱しないと、崩れてバラバラになります。
煮えたらペーストにした金時芋と合わせて、栗きんとんになります。
クチナシの実で色付けした黄金色のきんとんはお金が貯まるという縁起物です。

〈菜の花〉
早春を感じさせる菜の花。
そのグリーンは、おせちの彩りには貴重な存在です。
サッと茹でて寒風で冷まし、お浸しにします。
シャキシャキとしてほろ苦いところが春を感じますね。

〈銀杏〉
秋のぎんなんを酒煎りにしました。
大粒の藤九郎の鬼殻を割り、更に薄皮を取り除き、たっぷりのお酒と天然塩を使い、強火で一気に煮ます。
むっちりとした塩味のギンナンはシンプルで美味しいですね。

〈叩き牛蒡〉
豊作を祈願したおせちの定番料理です。
春ゴボウをたわしでこすり、土を落とします。
太めに切ったゴボウをサッと水にさらしてあく抜きし、湯がいてゴマと合わせます。
歯ごたえ良く、ゴボウと煎りゴマの香りが感じられます。

〈煮干し磯辺揚げ〉
当店のお弁当にも登場するイリコの磯辺揚げ。
なんだお弁当と同じかと思うなかれ!
東京築地から取り寄せた最高級の煮干しです。
その大きさと色艶に圧倒された今回の煮干し。
因みに煮干しと炒り子はまったく同じものです。

〈無花果梅酢漬〉
干したいちじくをサッと茹でて戻し、梅雨に仕込んだ梅酒に漬けました。
アルコール分はありますが、焼き魚の付け合わせにどうぞ。

〈蒲鉾〉
今年も京都一の老舗、いづ萬さんから取り寄せました。
ハモやグチをふんだんに使った、いわゆる魚の味がする高級蒲鉾です。

【酢の物】

〈狭腰生寿し〉
サゴシはサワラの幼魚です。
皮ごと食すには皮の薄い小型のサゴシが適しています。
サゴシを三枚に下ろし、強塩をします。
1時間ほど置いて魚の水分が抜けたら酒水で洗い、調味酢に漬けてキズシに。
お正月には出世魚のサゴシが合いますね。♪

〈真鯛生寿し〉
淡路の天然タイを使った贅沢なキズシです。
大変贅沢な天然真鯛。
めで鯛と言われる天然鯛は特に年末高騰します。
鯛を三枚に下ろし、薄塩をして水分を抜きます。
皮肌にサッと熱湯をかけて松皮作りに。
調味液に数時間漬け、お刺身感を出します。
天然真鯛の甘さや香りが感じられる上品なキズシです。

〈酢蓮根サーモン巻〉
阿波レンコンを薄くスライスし、サッと湯がきます。
甘酢に一晩漬けて酢レンコンを作ります。
低温熟成された紅鮭のスモークサーモンで、くるくる巻いたサーモン巻きです。

〈赤蕪甘酢漬〉
赤カブを見つけて衝動買い。笑
箸休めにいかがでしょうか。
皮ごとスライスして塩をし、甘酢に漬けました。
お味は薄めで赤カブの色と瑞々しさをお楽しみ下さい。

【焼き肴】

〈鰆の味噌柚庵焼〉
巨大な寒サワラは高級魚です。
まず三枚に下ろし、薄塩をして、柚庵地に三日間漬け込みます。
水分を切った鰆を遠火でゆっくり焼きます。
味噌漬けは焦げやすいので神経を使います。
今回の鰆は特に油がのっていました。
柚子をたっぷり使っていますので、香りが爽やかです。
味噌との相性もよろしいのではないでしょうか。

〈天然鰤塩焼〉
天然のブリは今年も恐ろしく高価でした。
おおよそ一匹2万円から3万円!
あまりに高価な天ブリは照り焼きなどは失礼です。
照り焼きなら養殖でもよろしいかと。
そこであら塩を振りかけて、一番シンプルな塩焼きを選びました。
天然物は自然な適度の油が良いですね。
天然ブリが持つ本来の美味しさをお楽しみ下さい。

〈厚焼き玉子〉
こだわりの卵の卵黄だけを使い、たっぷりの魚のすり身と合わせたリッチな卵焼きです。

〈鶏松風〉
当店定番の焼き物です。
鶏のミンチと卵、魚のすり身等をブレンドし、オーブンで焼き上げます。
今年は粉山椒が極端に高価ですが外せませんし。
私は肉類は苦手ですから味見できないのが残念です。汗

【焚き合わせ】

〈新竹の子〉
今年の竹の子には困りました。
30年以上続けてきたおせち作りで竹の子がなかったことはありません。
しかし今年は無理かなと思っていました…28日までは。
実は一番の取引先が2年前に倒産。
今年は昨年からお願いしていた八百屋さんの店長が急に倒れられました。
今年は特に竹の子が少なく、事前に予約していても難しい状況で、予約ができない状況下になった私は半ば諦めておりました。
ブランド筍の名産地、合馬産の茹でた真空パックなら沢山あります。
しかし昨年のヒネの筍では新年を祝うにはあまりに意味がありません。
しかし予定よりかなり遅れて取引がある一軒の八百屋さんから奇跡的に仕入れることができました。
なんでも、あまりに高値な生竹の子が、売れずに残っているので買ってくれないかということでした。
こちらは願ったり叶ったりで有り難く買わせていただきました。
急きょ米糠を用意して調理に取りかかります。
濃厚な出汁をとり、あく抜きした竹の子を炊きます。
竹の子は水分が多く、一度炊いてそのまま冷まし、出汁をすべて入れ換えて再度炊きます。
こうすると味がのり、日持ちもします。
早掘りの新竹の子はアクも含めて早春の味わいです。

〈冬菇椎茸〉
どんことは原木栽培された椎茸を天日で干したものです。
クヌギやナラの原木に菌を植え付け、2、3年かけてゆっくり育ちます。
その収穫した椎茸を天日で干したものがどんこです。
水で戻せば大きく肉厚になります。
特に上物の国産品はかなり高額な食材のひとつです。
冷水で2日間かけて戻し、戻し汁を使って甘露煮にします。
濃厚肉厚な椎茸は食べごたえ抜群です。

〈海老芋〉
海老芋は冬限定の芋類です。
海老のように縞模様があり、先が細く長い特徴的な形をしています。
しかし先っぽは繊維が多く切り落として使います。
米の研ぎ汁で下煮してから濃い出汁であっさりと煮含めます。

〈玉蒟蒻〉
昔ながらの製法で作られた玉コンニャクです。
小さいながらも歯ごたえがよく、効率重視の時代が製法を変えていった時間を噛み締めるコンニャクです。

〈棒鱈〉
毎年仕入れるか迷う棒だら。
とても高価(1匹2万円ほど)で非常に手間暇がかかります。
棒だらは真鱈を天日で干したものです。
固く干された棒だらを数週間水を換えて戻し、柔らかくしてから炊きます。
作る工程、戻す工程、煮る工程…究極のスローフードは最近の方には考えられないかもしれません。

〈鳴門穴子〉
鳴門の渦潮のようにくるくる巻いて炊くから鳴門煮。
近海の活けのアナゴを時間をかけて煮含めます。

〈助子煮〉
助子とはスケトウダラの卵のタラコです。
冬だけ出回る生のタラコ。
鯛の子とも言われますが、その生タラコを生姜をきかせた出汁で煮ます。
ハラハラとして柔らかい魚卵の旨みが生きています。

〈子持ち鮎〉
子孫繁栄という意味で、おせちは魚卵をよく使います。
晩秋から出回る子持ちアユ。
今年の鮎は大きくて卵がたっぷりです。
まずは素焼きにして煮崩れを防止します。
骨まで柔らかくする為に長時間煮ます。
今回は初夏に仕込んだ実山椒を使い、有馬煮にします。
有馬煮とは山椒の産地の兵庫有馬の地名からで、京都なら鞍馬煮となります。
コトコト6時間ほど炊いた鮎は身よりも卵が多いです。

〈牛肉時雨煮〉
しぐれ煮とは生姜を使った佃煮のことです。
黒毛和牛を食べやすく切り、霜降りした後に時雨煮にします。
途中、実山椒も入れて爽やかに。
普段の当店では考えられない一品です。

〈絹莢〉
絹さやも年末には高価になります。
やはりお煮しめの彩り等に使われるからでしょうか?
おせちには貴重な緑ですから。
筋を取り除き、サッと湯がいてお浸しにします。
特に傷みやすいので、菜の花と並び、一番最後に作るのがこのニ品です。

〈金時人参〉
冬限定の赤いにんじん。
普段はオレンジ色の西洋人参ですが、濃い赤は重箱を引き締めます。
人参の味も濃厚で、丸く切って日の出にします。

以上。

今年は特に仕入れが難しく、ストレスから胃炎になりました。
しかし料理作りは楽しく、普段は触れられない高価な食材に囲まれた日々は、以前の料理屋時代が思い出されて幸せでした。

今年も夢のような時間をご提供下さったお客さまに感謝です。
毎年のご注文ありがとうございました。

今年も皆さまにとって良いお年になることをお祈りしています。
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
2
3 4 9
10 16
17 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
プロフィール
HN:
しきしき
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/10/08
職業:
料理家
趣味:
料理とお菓子の研究
自己紹介:
以前はこだわりの料理屋を営んでおりましたが、より沢山の方に召し上がっていただきたく、炊き込みご飯と雑菓子の店を本町にオープンいたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

<営業時間>
11:00より売り切れ次第終了

<定休日>
土・日・祝祭日

<所在地>
大阪市中央区久太郎町2-5-18

<電話>
(06)6245-5636

<ご予約>
8:00~11:00までにお願いいたします。
バーコード
カウンター
カウンター
"しきしき" WROTE ALL ARTICLES.
PRODUCED BY SHINOBI.JP @ SAMURAI FACTORY INC.