今日の献立
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本来なら念頭のご挨拶を述べるところですが、1月1日に起きた能登半島地震で沢山の方が被災されました。
被害に遭われた方々には謹んでお悔やみとお見舞いを申し上げます。

旧年中は大変お世話になりありがとうございました。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

さて今回は、毎年恒例のおせちの解説をしたいと思います。
やはりといいますか、今回もかなりの値上げで仕入れが難しかったです。
ただ、昨年よりかなり値上がりした物もあれば、少し安くなった(それでも平年に比べれば高いのですが)物もございます。
本当に何でも値上がりする年末の仕入れは難しいものがあります。

[干し数の子]
大変希少なため、毎年夏が終わる頃には発注します。
干し子(通常の塩蔵の数の子を塩子といいます)と呼ばれる幻の数の子は、恐らく百貨店にもあるかないか。
干し子は国産のニシンの卵を天日で干したものです。
カチカチの状態の乾物なので、塩水を毎日交換して5日ほどかけて戻します。
戻したら薄皮を掃除し、酒で洗ってたっぷりの出汁に漬け込みます。
「数の子は音でたべるもの」と言ったのはかの北大路魯山人。
確かに数の子の良し悪しはその歯ごたえにあります。
最高級の北海道産塩子の約10倍はする干し子は最高ランクのスーパー数の子です。



[京丹波黒豆]
丹波篠山から毎年送っていただく黒豆。
当店では大粒の新豆を仕入れています。
乾物ですから、一昼夜かけて米の研ぎ汁で戻し、三日三晩極弱火で炊きます。
壁に投げてくっつくくらい柔らかくなったら、砂糖と醤油で味付けします。
砂糖は赤ザラメを数回に分けて投入。
黒豆は急な温度変化を嫌います。
シワがよらぬようコトコト弱火で煮て、空気に触れないようにします。
仕上がりには都合5日ほどかけます。
昨今は圧力鍋でサッと仕上げる方も多いようですが、私は時間が美味しくしてくれると信じています。



[イクラ]
昨秋は前半は鮭がよくとれ、筋子(イクラの原料)もたくさん出回りました。
ただ後半は急に不漁となり、鮭が不足する事態に。
川を登った鮭の卵は大きいのですが皮も固く口に残ります。
イクラを作るには、川を登る前の海にいる鮭の卵で作るのが美味です。
やや小粒ですが皮も柔らかく、ねっとりとしています。
高級珍味のイクラですが、今年も醤油漬けを盛り込みました。

[車蝦]
活けの車蝦の背わたを取り、沸騰した出汁に酒をきかせてサッと煮ました。
加熱が甘いと後々黒くなりますので、色鮮やかにしっかりと艶煮にします。
活けの車蝦も年末は特に高価になりますね。



[伊勢海老]
縁起物としてはこれほど花のある食材も少ないですね。
お祝いの席では伊勢海老か真鯛が最上です。
本場伊勢産の伊勢海老。
輸入物は色も薄く味も淡白ですが、近海物はしっかり赤い。
これも酒をきかせた出汁でやや長めにしっかりと加熱します。
プリプリした身は食べごたえがありますね。

[鮑]
活けのアワビを酒蒸しにしました。
鮑をサッと洗い、酒をふって4時間蒸し煮込みにします。
お刺身にすればコリコリする鮑も長時間蒸すことによって、驚くほど柔らかくなります。
固い鮑も良いのですが、こちらの方が万人受けして喜ばれます。



[蒲鉾]
今年もいづ萬さんから送っていただきました。
京都一の老舗のかまぼこ屋さんです。
ハモを贅沢に使った蒲鉾は、やはりお正月には食べたくなります。
味はもちろん、歯ごたえも最上です。



[唐墨]
日本近海の鯔(ボラ)の卵で作ったカラスミです。
日本三大珍味の一つの超高級珍味。
ねっとりとしてコクがあるその味わいは、酒の肴としては最上。
作り方は塩をして酒で洗い天日で干すだけなのですが、毎日裏返したり、かなりの手間ひまがかかります。
高級なのですが、毎年欠かせない一品です。

[海胆]
ウニも日本三大珍味です。
厳密に言う日本三大珍味とは、尾張の口子、野母の唐墨、越前の海胆ですが、特に年末は恐ろしく高くなります。
海胆に塩をして蒸し器で蒸します。
こちらは短時間で。
あまり蒸すと逆に固くなります。
海胆は蒸すと水分が取れてより濃厚になります。



[スモークサーモン]
特に味がよい紅鮭をスモークしました。
冷温で燻製することにより、よりサーモンの味が際立ちます。
ねっとりして風味よいスモークサーモンです。

[叩き牛蒡]
私が幼少の頃、祖母が作っていたのを覚えています。
細めのゴボウをそのまますりこ木で叩き、醤油味の煎った白ゴマで和えていたような…
ゴボウは子供には固く、ガリガリと必死に噛んでいました。
叩くと味染みが良いのですが、今の料理屋ではあまり叩きません。
食べやすく切って、味つけした煎ったゴマで和えますが、やや硬めに茹でた熱々のゴボウをゴマの中で混ぜて馴染ませます。
いつもは薄味だったのですが、今年は少し濃い味加減で存在感を出してみました。
酒の肴に一切れ…といった感覚です。

[真鯛の昆布〆]
年末は睨み鯛の需要から特に値上がりする真鯛。
養殖物なら沢山ありますが、天然物は数に限りがあります。
にらみ鯛とは鯛の姿焼きのことで、正月三が日は床の間に置いた鯛に手をつけてはいけません。
そこで三が日の間はチラチラと見る(にらむ)ことから、睨み鯛と言います。(苦笑)
話が脱線しましたが、今回は睨み鯛ではありません。
近海天然物の真鯛を捌いて柵にします。
薄塩を当てて天然真昆布で包み、ラップでくるんで冷蔵庫で1日寝かします。
昆布から出した鯛の身を、へぎ作りにするのですが、締まった身はねっとりと包丁に絡み、中々切りにくい!汗
尺一寸の柳葉包丁をいっぱいに使い、全部を切るのにかなりの時間を要しました。
しかし昆布の風味と締まった真鯛の身は、お刺身以上に味があります。



[堀川牛蒡和牛射込]
一昨年はべらぼうに高価だった堀川ゴボウ。
1本五千円はしていました。
今回は京都産が手が届く範囲で仕入れられました。
私の手首ほどもある太い牛蒡はすごい存在感です。
まずタワシでゴシゴシ洗い、ある程度の長さに切って米糠で湯がきあく抜きします。
更に熱湯で湯がいた後に出汁で炊いて味つけします。
黒毛和牛を少し叩いてすき焼き風に煮込みます。
どちらも水分を切り、堀川牛蒡の穴に和牛を詰め込みます。
定着するまで少し冷やして食べやすく切ります。
堀川牛蒡の中心には大きな穴が開いていて、そこにミンチやすり身を詰め込んだりします。
もちろん牛蒡そのものでも美味しいのですが、詰め物をするとまた違った楽しみがありますね。



[銀鱈味噌幽庵焼]
毎年焼き魚には鰆を使います。
しかし今回は初めて銀ダラを使ってみました。
味噌漬けの定番の銀鱈。
深海魚で水分が多く、味噌に漬けると身が締まって良い塩梅になります。
ただ身がもろく焼くのに神経をつかいますが、味噌漬けにすると大変美味な高級魚です。

[穴子照焼]
アナゴはよく鳴門煮にするのですが、今回は近海アナゴを照り焼きに。
穴子を開き、タレで付け焼きにしました。

[鶏松風]
鶏のミンチを二度挽きし、魚のすり身や卵などを混ぜてオーブンで焼きます。
中にはレーズン、松の実を入れて、天にはケシの実をふるのがお約束。
表面は賑やかな割に裏は寂しい、裏さみしい松風の音…と洒落てこの名があります。

[厚焼き玉子]
濃厚卵の卵黄を使い、魚と海老のすり身を混ぜた贅沢な玉子焼きです。
厚めの形に流し込みオーブンで焼きます。

[狭腰の生寿し]
サゴシとは鰆(さわら)の幼魚です。
皮ごと食するキズシは鰆では皮が厚すぎるので小さな狭腰を使います。
特に関西では狭腰の生寿しはお正月には欠かせません。
鰆類は身が弱く高鮮度が求められます。
狭腰を三枚に下ろし、ベタ塩をして水分を抜きます。
酢水でサッと洗い、昆布を入れた合わせ酢に漬け込みます。
切れ込みを入れながら一口大に切ります。



[茗荷]
ミョウガは色が綺麗なのでよく使います。
これも需要があるのか年末には値が上がります。
茗荷の固い葉を取り、サッと湯がきます。
すぐにザルに上げて塩をふります。
粗熱が取れたら一晩甘酢に漬けます。
茹でたてはくすんだ色ですが、甘酢に漬けると色鮮やかになります。

[酢蓮根]
レンコンの穴は先を見通す縁起物とされ、年末は高くなります。
蓮根にもランクがあり、最上の阿波蓮根を仕入れます。
皮をむき、酢水にさらしてアク抜きします。
厚めに切り、サッと湯がいてザルに取って塩をふります。
粗熱が取れたら甘酢に漬けます。
蓮根はアクがあると色変わりするので、なるべく良い物を仕入れます。

[カリフラワー]
料理に白い物が入ると綺麗ですね。
しかし白い物は少なく、カリフラワーは持ってこいです。
ただ、今年は割と買いやすかったのですが、すごく高価な年もあり、毎年入る訳ではありません。
カリフラワーを小さな房に切り、サッと茹でます。
他と同じようにザルに取り、塩をふって甘酢に漬けます。
爽やかな酢の物は、こってりした物が多いおせちでは箸休めになりますね。

[竹の子]
生の竹の子もやはり欠かせません。
真空パックや缶詰では香りや食感がまるで違います。
それはあの合馬のものとて同じです。
生の竹の子を米糠で湯がきます。
竹串が通るぐらい柔らかくなったら、そのまま置いて冷まします。
但し、あまり柔らかくすると竹の子本来の食感が失われますので程々に。
冷めたら皮をむき、綺麗に掃除して水にさらします。
出汁を沸かし一度目の煮炊きです。
ここで竹の子の水分と出汁を入れ替える訳です。
更に翌日に出汁を入れ替えて二度目の煮炊きです。
こうすることで傷みにくくなります。
味つけは味醂と少量の白醤油で、竹の子の持ち味を引き出します。



[冬菇]
どんことは原木椎茸を天日で干したものです。
収穫まで長い年月を要し、高価になります。
当店では丸のまま盛り込みたいので中型を使います。
サッと洗った冬菇に水をはり冷蔵庫で戻します。
よくぬるま湯で戻す方もいますが、冷水でゆっくり戻すと持ち味が生きます。
肉厚の冬菇は戻しに二日はかかるでしょうか。
椎茸の石突をとり、戻し汁と酒で煮ます。
椎茸に水分が多いので、やや濃い目に味つけし、コトコト長時間煮て味を含めます。
冬菇は肉厚で食べごたえがありますね。

[慈姑]
クワイも芽の出る縁起物とされ、年末のみ出回ります。
農家も後継者不足で廃業が多く、クワイも年々高価になります。
大きなクワイを使うと場所を取りすぎるので豆クワイを仕入れます。
クワイを綺麗に掃除して、サッと油で揚げました。
素朴な見た目ですが食べやすいですね。

[金時人参]
これも冬のみ出回ります。
細いものはお雑煮にも使います。
西洋人参に比べて赤みが濃いので引き立ちますね。
時間をかけて濃い出汁で、色を鮮やかにしたいので白醤油を使います。

[薩摩芋]
昨今は安納芋や紅はるかなどのねっとり系が人気なのだとか。
確かに焼き芋には良いのでしょうが、煮物にはホクホクした金時芋が美味しいですよね。
鳴門金時を輪切りにし、砂糖とクチナシの実を入れて甘露煮に。
クチナシの実を入れると色鮮やかに染まります。

[玉蒟蒻]
昔のコンニャクの復刻版です。
昔ながらの製法に頑固にこだわり、昔の味を再現した蒟蒻です。
独特のコリコリとした食感と、味染みの良さが特徴です。
下茹で不要とのことですが、一応湯がきます。笑
出汁を調味して、長時間煮て味を乗せます。
煮物全般に言えますが、おせちは保存性を考えて出汁の1割の酒を合わせて炊いています。

[鯛の子]
通称たいの子。
正体は生のタラコのことです。
大阪や京都では昔から生の鱈子を鯛の子と呼びます。
これも冬限定の食材で、オフシーズンは塩蔵の鱈子として出回ります。
鯛の子を食べやすく切り、流水にさらして血抜きします。
こうすると味が格段に良くなります。
甘めに調味した出汁に生姜をきかせ、崩れないように弱火で煮含めます。
ふわっとして粒がハラハラと解け、なんとも言えない食感です。

[鰊甘露煮]
今年は北海道のニシンが入ると言われたので仕入れました。
国産は珍しいですね。
鰊の甘露煮といえばにしん蕎麦を連想します。
小骨を取り除いて掃除した半乾の鰊を番茶で戻して水にさらします。
酒水を濃いめに調味し、約4時間煮込みます。
こってりとした鰊は柔らかく食べやすいですね。

[絹莢]
色合いを考えるとおせちも青い物が必要ですが、青も少ないですね。
当店では今年は菜の花とこの絹さやを使います。
絹莢も食感が大事ですからサッと茹でます。
そのままザルに上げ、粗熱が取れたらお浸しにします。
絹莢は足が早いので、一番最後の30日の朝に作ります。

[菜の花]
最後まで手こずったのがこの菜の花です。
貴重な青みと春を感じさせる野菜。
菜の花はすぐに黄色くなるので青いものが少なく、数も少ないので仕入れに手こずりました。
菜の花も足が早く最後に作ります。
そのほろ苦さは爽やかさを感じますね。



[銀杏]
イチョウの実のギンナン。
小さく手間ひまが掛かりますが、毎年入れています。
まず鬼殻を割り、更に薄皮をむきます。
綺麗に掃除したら、酒と塩で一気に煮ます。
コリっと少し苦味があり、アクセントになりますね。

[栗渋皮煮]
秋に仕込んで瓶詰めにすると安価で作れますが、当店では氷温で貯蔵した栗を年末に作ります。
渋皮煮は鬼殻をむく時に、渋皮を傷つけないように非常に神経を使います。
傷がつけば煮込む最中に崩れてダメになります。
数回アク抜きをし、コトコト長時間煮込みます。
市販のものより甘さ控えめに仕上げています。



以上。
多忙の為、写真を撮り忘れた食材が多々あります。
特に入荷が遅かった物とか…汗

今回も仕入れに苦労した年でした。
しかし普段は使えない高価な食材に触れられて、以前の料理屋の頃を思い出しながらしんどいながらも楽しく仕事ができました。
今の私にとっては夢のような時間を与えて下さり、おせちをご注文いただいた皆さまには感謝しております。
本当にありがとうございました!

追伸:おせちの発送を希望された方のみなのですが、発送時間に余裕がなく、バタバタとして風呂敷に包むのを忘れてしまいました。
大変申し訳ありません!
箱から取り出しにくかったかと思います。
決して経費削減ではございません。汗
以後、気をつけますのでご容赦下さいますよう宜しくお願い致します。m(_ _)m
あけましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりありがとうございました。
本年も変わらず、どうぞよろしくお願い申し上げます。
尚、新年は6日(木)からの営業になります。

大晦日は朝からおせちのお引き取り、ありがとうございました。
一段と寒い日で雪がチラホラと舞っていました。
おせちの保存はできれば冷蔵庫かベランダのような室温よりも寒い所での保管をお願いいたします。

さて例年ならお正月明けに更新する料理解説ですが、もっと早くに見たいと仰る方が多く、今回は早めの更新です。

以下、2022年 新春おせち 料理解説



[干し数の子土佐地漬け]
今年も留萌(北海道)からヤマニの干し子が手に入りました。
干し子とは干して作られた数の子のことで、通常市場で並んでいるのは塩蔵の塩子になります。
その昔、塩蔵技術が発達していない頃は数の子といえばこの干し子でした。
しかし今では99パーセント以上が塩子になり、干し子は幻の数の子となりました。
私は特にこの干し子にこだわりがあり、毎年夏頃には数十箱発注します。
しかしそれでも入らない年もあり、一年に一度のセリがある11月末まで気が気ではありません。
今年は無事に確保でき、ホッと一安心できました。
干し子は現代にはマッチしない超スローフードです。
値段はびっくりするほど高価ですが、それでも手間暇を考えると作り手の方には合わないとのことです。
しかし先代たちが培ってきた日本の食文化を守るために頑張っておられます。
干し子はカチカチの乾物ですから、塩水で約5日かけて戻します。
戻ったら薄皮をむき、旨出汁に二度漬けします。
数の子は音で食べるもの‥‥と言われたかの北大路魯山人。
まさに干し子は数の子の頂点に君臨する幻の食材です。



[京丹波黒豆蜜煮]
ここ数年は黒豆も不作だとか。
私は例年小田垣商店の黒豆を使っていますが、今年は飛切極上が欠品でした。
この飛切極上はヒネ(昨年収穫したもの)の中から職人さんが特に良い黒豆を厳選し、袋に詰められたものです。
で今年は新豆の特上品を購入。
どちらも品質は最高で、日本の中でもトップクラスの黒豆です。
いつものように納戸から黒豆専用の鉄鍋を取り出し、コトコト時間をかけて炊いていきます。
黒豆は壁に投げつけて、潰れてくっつくぐらいまで柔らかく煮ます。
弱火でコトコト一昼夜。
戻しからは三日間ほどかけて仕上げていきます。
当店の黒豆は赤ざらめでコク良く仕上げています。

[いづ萬のかまぼこ]
創業1844年(弘化元)、京都一の老舗 いづ萬さんの蒲鉾です。
時々お客さまが美味しい蒲鉾が食べたいと仰るので、いづ萬さんから取り寄せます。
昔は魚から作った時期もありましたが大変な労力ですし、やはり餅は餅屋です。
いづ萬さんには敵いません!
ハモとグチを贅沢に使った最高峰の蒲鉾です。



[蒸し海胆]
主産地の北海道では赤潮の影響で深刻な被害を受けました。
価格は暴騰し、2、3倍に値上がりしています。
メニュー変更も考えましたが、思い切って仕入れました。
甘味のある馬糞ウニです。
木箱のまま蒸気の上がった蒸し器で天然塩で仕上げます。
本来濃厚なウニですが、より濃縮された美味しさに仕上げてあります。



[唐墨]
日本三大珍味のカラスミは超高級品です。
カラスミとはボラの卵巣です。
まずボラの卵巣を塩漬けし、塩抜きした後に天日で干します。
手間や日数がかかるため、特に国産は高値で一腹数万円はします。
しかしその濃厚な旨味やねっとりとした食味は食通を唸らせます。
旨さのカギは塩の塩梅でしょうか?
今年も大型のカラスミをスライスしました。
お酒だけではなく、ご飯やパスタにも合いますね。

[イクラ醤油漬け]
なにかボヤキのようですが、今年は鮭も不漁でした。
親の鮭が居ないとなると、子のイクラも暴騰します。
しかしこればかりは自然が相手でどうしようもありません。
いるものはいりますので、どんなに高くても仕入れます。
今年は醤油漬けにしました。
イクラは大きければ良いというものではありません。
あまり大きくなれば皮が厚くなり食味が悪くなります。
程よい大きさのイクラが美味で、甘塩の醤油味はご飯もお酒も楽しめます。



[鮑柔らか煮]
小さなアワビは食べごたえがなく、今年は少し大きくしました。
養殖や輸入物は買いやすいのですが、近海天然物は高値で取り引きされます。
貝は長時間加熱すると、硬くなり縮みます。
そこで今回は弱火の蒸し煮に致します。
まず鍋にたっぷりのお酒と大根でコトコト2時間ほど煮た後に、蒸し器で3時間ほど蒸し煮込みに‥
圧力鍋を使えば早く仕上がるのかもしれません。
しかし私は時間が美味しくしてくれるのだと硬く信じています。
都合5時間ほどかけた手間のかかる柔らか煮です。

[車蝦艶煮]
年末の車海老は東京はじめ全国で取り合いに‥
もちろん一番高く買う東京が有利なので非常に厳しい年末になりました。
今年の仕入れ値は昨年の約2倍以上に。
一瞬ちゅうちょしましたが、海老のないおせちは考えられません。
海老は縁起物で、腰が曲がるまで長生きできるようにと必ず入れる食材です。
また当店はそれなりにお値段をいただく訳ですから、輸入物の有頭海老(ブラックタイガー)では格好がつきません。
沖縄から生きた車海老を注文し、艶煮にしました。
一度出汁で煮て完全に火を通し、更に旨出汁に一日漬け込みました。
塩ゆでだけでも美味しい車海老ですが、味に深みをもたせています。

[鰻冊]
愛知の炭焼き鰻を付け焼きし、ズッキーニの一夜漬けと共にうざく風に。
濃厚な鰻と爽やかなズッキーニは相性◯です。



[栗の渋皮煮]
おせちの定番の渋皮煮。
今年は越後の手々内(ててうち)栗です。
ここの栗も超大粒(3L)で、今回も半分にカットして詰め込みました。
渋皮煮は大変手間暇と神経を使いますので、スタッフには不評です。(汗)
しかしお客さまには大変喜んでいただけますので、頑張って剥いています。
渋皮煮は渋皮に傷をつけずに鬼殻だけを剥くのですが、これが厄介です。
高価な栗ですが、失敗分も計算して多めに仕入れています。(苦笑)
当店の場合は栗の味と風味を生かすため、砂糖はやや控えめに炊いています。
手間暇をかけた大粒の渋皮煮をご堪能ください。



[水晶銀杏]
岐阜の藤九郎銀杏です。
藤九郎は最も大きく高価な銀杏です。
銀杏はまず鬼殻を割ります。
今回は銀杏割りを新調しまして、作業もはかどりました。
鬼殻を剥いたら今度は薄皮も剥きます。
栗同様、殻に閉じこもった食材は本当に厄介ですね。
一つ一つ丁寧に剥いたら、酒塩煮にします。
プルンと膨らんだら出来上がり。
できたては艶々で、まるで水晶のようです。
が、時間が経つと艶は失われていきます。(苦笑)

[菜の花お浸し]
毎年入れる菜の花はほろ苦くどこか春を思わせます。
菜の花をサッと湯がき、陸上げして寒風にさらしてお浸しにします。
味の濃いものが多いおせちですが、このような一品があるとホッとできますね。

[叩き牛蒡]
関西のお正月の祝い肴三種は数の子、黒豆orごまめ、たたきごぼうです。
ちなみに関東は数の子、黒豆、田作り(ごまめ)。
本来の叩きごぼうは私の祖母がそうでしたが、ごぼうを丸ごと包丁の峰やすりこ木で叩いて味染みを良くし、すったゴマだれに混ぜたものです。
しかし今の料理屋ではほとんど叩きません。
やや太めの食べやすい大きさに切り、酢水で湯がいてゴマだれに漬け込みます。
今回は新ごぼうを仕入れて煎りゴマでシンプルに仕上げました。
春ごぼうの香りと食感をお楽しみ下さい。

[鰆味噌柚庵焼]
近海物の刺し身用のサワラを柚庵地に漬けて焼いたものです。
巨大な鰆は高級魚です。
特に今は寒鰆といって油があり最も美味しい時期です。
ちなみに鰆は魚編に春と書きますが、これは瀬戸内では春に沢山の鰆が上がった為との説があります。
鰆を切り身にし、柚庵地に約3日間漬け込みます。
しっかりと味が付き、柚子の香りが更に鰆を美味しくします。

[鱒幽庵焼]
たっぷり油がのったマスを漬け焼きにします。
お刺身用で油があるので、半日ほどベタ塩をしてクセを抜きます。
あまり油が多いと魚の味がボケてしまいます。
更に幽庵地(酒、ミリン、醤油を合わせたもの)に数時間漬け込み、こんがりと焼きます。
幽庵地は人それぞれで柑橘を利かす場合もありますが、今回は鰆で使いましたので、あえて使いませんでした。

[穴子山椒焼]
対馬(長崎)の黄金アナゴを上品に醤油焼きにしました。
非常に肉厚な穴子で、鰻よりも大きいでしょうか。
鰻同様、穴子も数が激減して高級魚になりました。
お味が薄いとお感じなら塩をふって白焼き風にご賞味ください。

[焼き蓮根]
阿波レンコンの皮を剥き、乱切りにして水にさらします。
フライパンに油を引き、塩のみで味付けし、こんがり焼けたら完成です。
加熱時間で食感が変わります。
今回はややシャキッと仕上げました。
更に加熱すればモッチリ食感になります。

[鶏松風]
鶏ミンチをメインに山芋や赤味噌、ミックスナッツやレーズン、クランベリーなどを使いました。
生地ができたらオーブンで焼きます。
最後は表面に卵白を塗り、芥子の実を散らします。
山椒がきいた松風の完成です。

[厚焼き玉子]
黄身の濃い出雲卵に白身魚のすり身と山芋、調味料で味付けし、オーブンで焼きます。
主に黄身だけを使いリッチで贅沢な厚焼き玉子に。
やや甘めの味はお子様にも人気があります。



[真鯛の生寿司]
今年は1.5キロの立派な宇和島の真鯛です。
鱗を引き三枚に下ろし、薄塩して身を締めます。
表面の皮だけに熱湯をかけて湯霜にし、キズシに。
こうすると皮ごと食せます。
おせちはお刺身を入れられませんから大抵は酢で締めて盛り込みます。
少しお味が欲しければ少量のお醤油でお召し上がり下さい。



[狭腰生寿司]
サゴシとは鰆の幼魚です。
関西のお正月にはこの狭腰がよく使われます。
生で皮ごと食すので、大きな鰆だと皮が分厚すぎて食べにくいものです。
狭腰を三枚に下ろして身を塩で締めます。
じわっとしたら塩を洗い流して調味した酢に漬けます。
一品としてなら数時間漬けて半生でOKですが、おせちは保存食ですからじっくり漬けます。

[アメーラ甘酢漬け]
小粒のアメーラトマトを半切りし、甘酢漬けにしました。
ちなみに甘酢は当店のトマスパと同じ配合です。
ただ漬け時間は店では30分ほどですが、今回は丸のままですから長時間漬け込みました。

[酢蓮根サーモン巻]
皮を剥いたレンコンを薄くスライスし、サッと湯がいて柔らかい甘酢に一晩漬けます。
水気を切り、天然紅鮭で作ったスモークサーモンと共にくるりと巻きます。
サーモンのコクと濃厚さに爽やかな酢レンコンがベストマッチ。
高級感のある人気のメニューです。

[金柑シロップ煮]
最近は巨大で立派な金柑が多く、中々小さいのがありません。
ようやく見つけましたが、それでも大きく場所取りになります。
スカスカのおせちなら場所取りになって良いのでしょうが‥苦笑。
今回は半切りにして炊くことにします。
金柑をカットし、種を除いて水に放ちます。
鍋にシロップを作り、金柑を入れ、短時間で仕上げます。
仕上がりは好みですが、私はあまりクタクタにならないのが好みです。
シロップにはグラニュー糖を使いスッキリと仕上げました。



[新筍]
今回苦労したのがこの竹の子です。
今の時期、生の竹の子すら置いている店はなく、あっても中国産です。
実は昨年まで仕入れていた店が倒産した時点で厳しくなるのは予想していました。
私は国産にこだわるので、ぎりぎりまで待ちました。
そんな中でも一軒の業者が頑張って下さり、今年も無事に確保できました。
ただ、夜中の3時に電話が鳴り叩き起こされましたが‥苦笑。
新筍の土を洗い流し、米ぬかでアク抜きします。
一晩冷まして掃除します。
筍は水分が多く傷みやすい食材です。
一度炊いて冷まし、翌日出汁を入れ替えて再度炊きます。
こうすることで筍の水分と出汁が入れ替わり日持ちします。
薄味で時間をかけたいち早い筍です。

[冬菇椎茸]
どんことは原木栽培のしいたけを自然乾燥したものです。
当店が使うのは中型で肉厚のもので、山梨の業者さんから仕入れています。
干し椎茸も冷水で戻した方が、本来の椎茸の味と食感が楽しめます。
真冬は外で、その他は冷蔵庫で最低まる二日かけて戻します。
それから石づきを取り、これは好みですが戻し汁を使って炊いても良いでしょう。
時間をかけて甘露煮にします。



[豆慈姑]
今年は広島産の豆くわいを買いました。
そういえば八百屋さんが年々慈姑が売れないとぼやいていました。
やはりおせちを作る家庭が減っているのでしょうか?
慈姑もあまり大きいと場所取りになってしまいます。
大きければ包丁で六方に剥きますが、小さいものはたわしでこそげ取ります。
よくエグいとか苦いといわれる慈姑ですが、その場合は米の研ぎ汁で下茹でしたり、油で揚げれば良いでしょう。
特に中国産はそういうきらいがあります。
年々高価になる慈姑ですが、目が出る縁起物とされ、おせちには欠かせません。

[日の出人参]
冬場に出回る真っ赤な金時人参です。
日本料理にはやはりこちらでしょうか。
輪切りにして日の出に見立てて下茹でします。
出汁と酒、ミリン、薄口醤油、お砂糖で色鮮やかに煮ます。
西洋人参はどこかフルーティーですが、金時人参は人参本来の味がしますね。

[海老芋]
これも冬の食材です。
海老芋といえば棒ダラと炊いた料理が名物な京都のいもぼうさんが有名です。
私も勉強のため時々おじゃまします。
里芋は選ぶのが難しいですね。
時々、繊維質のものやゴリゴリしたものがあり、いくら炊いても柔らかくなりません。
私の結論としましては、磐田(静岡)の海老芋を選んで使います。
ここのは肉質がきめ細かく、煮崩れしにくいのに柔らかい‥そんな感じです。
弱火でコトコト、黄金出汁で含め煮にしました。

[絹莢]
絹さやは彩りも良く、シャキッとした歯ごたえはおせちにはありがたい食材です。
まずは絹莢のスジを取り除きます。
スジは枝になっていた付け根の方から取り、先っちょのひげの部分は残します。
ひげが無くなると見た目が不格好になりますから。
サッと茹でて急冷し、お浸しにします。

[五郎島金時]
今年は加賀野菜の五郎島金時が買えました。
この芋は高価ですが美味しいんですよね。
でもあまり出回らないのが残念です。
輪切りにして水にさらしてアク抜きします。
砂糖を多めにして甘露煮に。
これぞ金時芋!といった感じで、やはり一味違います。

[本手延玉蒟蒻]
昔ながらの製法を復活させた玉こんにゃくです。
小さいので場所取りにならず、おせち向きです。
味もいいですね。
味染みは良いのですが、時間をかけて煮込みました。

[鯛の子含め煮]
たいの子を食べやすく切り、水にさらして霜降りします。
煮崩れしやすいのでたっぷりの出汁を張り、酒と生姜、砂糖をきかせて時間をかけて煮ます。
ハラハラとした鯛の子は美味しいですね。



[棒鱈旨煮]
干し数の子と並んだ究極のスローフード。
特に関西の方に親しまれているようですが、若い方はご存知ないでしょうか?
手間暇のかかる棒ダラは、1匹1万円以上もする高級品です。
棒ダラとはスケトウダラではなく真ダラを寒風で干したものです。
乾物ですから毎日お米の研ぎ汁を交換し、時間をかけて戻します。
柔らかく戻ったら、食べやすく切り分けて、そのまま炊いて完全に戻します。
出汁と酒をたっぷりと使い、砂糖も入れて炊いていきます。
途中、醤油を何回かに分けて入れ、ゆっくり味付けしていきます。
戻しから換算して半月はかかる棒鱈煮。
忘れゆく日本の食文化は守って行きたいものです。

[鰊甘露煮]
久方ぶりのニシンです。
これも乾物ですが、鰊といえばにしんそばを連想します。
戻して掃除した鰊を番茶で下茹でして余分な油を抜きます。
出汁と酒をたっぷりと使い、3時間以上煮込みます。
小骨が柔らかくなればできあがり。
余談ですがその昔、当店のお弁当にはにしん丼がありました。
柔らかく炊いた鰊ときざんだネギ、錦糸卵をトッピングにしたお弁当。
しかしかれこれ10年以上はご無沙汰しています。

[白魚紅梅煮]
寒くなり大きくなった白魚。
独特の旨味がありますが、今回は夏に漬けた梅酒の梅を使いました。
煮崩れしやすいので、ごく弱火でコトコト煮ます。
出汁と酒、ミリンと白醤油を使います。
炊けたら竹ザルに優しく取り、水気をとります。

当初は写真も頑張って撮っていましたが、その内余裕がなくなりました。
すみません!^^;

以上。

例年、年末になると食材は高騰します。
しかし今回は異常な相場でまさに暴騰といえる食材が多かったです。
特に高価だったのは数の子にイクラ、鯛や車海老でした。

長いようで短かったおせち作り。

今回も沢山の方にご注文いただき感謝しております。

普段はお弁当作りの毎日‥‥
特にそれが不満ではないのですが、一年に一度だけ以前のように料理屋の主人に戻れる貴重な時間をご提供いただいたすべてのお客さまに感謝です!
新年あけましておめでとうございます。
旧年中は沢山のお客さまにご来店いただき誠にありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今回も沢山のご注文をいただきました新春おせち。
お断りしたお客さまには申し訳なく思っております。
少し遅くなりましたが、毎年恒例の料理解説をここに記します。

今年特に感じたのは食材の高騰です。
不漁、不作といったものもあるのかもしれませんが、新型コロナウイルスの影響も見え隠れします。
特に高騰したのが数の子です。
私は国産の干し数の子しか使いませんが、市場でメインの輸入物も、便の減少等で入荷が少なかったようです。
しかし少しでも良い食材を使いたいと思い、夏頃から発注を入れて頑張って仕入れました。
ただ例年でも年末には何でも値上がりするのは致し方ありませんね。

【令和参年 新春おせち 料理解説】

〈干し数の子〉
おせちを作って30年以上。

当初からウチの数の子といえば干し子です。
干し子とは固く干した数の子のことで、真夏の北海道で天日干しして作られます。
まだ塩蔵の技術が発達していなかった頃、数の子といえばこの干し子でした。
非常に手間ひまがかかり、裏返して裏返して乾燥させて干し子になります。
年々生産量も減り、年々高価になります。
しかしその歯触りは未知の領域です。
普通の塩子(塩蔵数の子)では満足できなくなります。
ただ戻す作業とお値段からおいそれとは手を出せませんし、普通には売ってません。
なぜなら市場に出る前に無くなってしまいます。
干し子はまず柔らかく戻して使います。
毎日朝晩塩水を交換し、約5日間続けます。
完全に戻ったら酒で洗い、旨出汁に漬け、翌日また新しい出汁に取り替えます。
本来は姿で盛り込みたいのですが食べやすくカットしました。
当店目玉の干し数の子は、通常1本が1,500円はする超高級品です。



〈京丹波黒豆〉
丹波篠山産の飛切極上の黒豆を蜜煮にした煮豆です。
一年に一度だけ納屋から出してくる鉄鍋で、コトコトコトコト一昼夜かけて柔らかく煮ます。
特に鉄鍋で煮ると豆が黒々と仕上がりますね。
お待ちでなければ、錆びクギを入れても同じ効果があります。
おおよそ三日間かけて作る黒豆は柔らかくてコクがあります。
ただ、いつもは瓶詰めにしてシロップごとお付けしますが、今年は重箱の中に汁切りしてから盛り込みました。
やはりせっかくふっくらと炊いても、汁を切るとシワが出ますね。
来年はまた瓶に戻すことも検討しています。



〈いくら〉
魚卵は人気があります。
当店では塩漬けにしたり、醤油漬けにしたり、その年で変えています。
イクラはあまり大きなものは使いません。
皮がかたくなり、食感が悪くなります。
ですから北海道の鮭からとれた程よい大きさのイクラを仕入れています。

〈唐墨〉
鯔(ボラ)の卵で作った珍味のカラスミ。
日本三大珍味の一つですが、これも毎年入れています。
当店では特に300g前後の特大サイズを仕入れています。
カラスミも手間ひまがかかります。
まず塩漬けにして水分を抜き、天日で干して仕上げます。
薄皮をむいてスライスすれば、あのネットリとした舌にまとわりつく食感が味わえます。
カラスミも一腹数万円はする超高級珍味です。



〈車海老〉
熊本産の活けの車エビの背ワタをとり、酒で煮ました。
あまり炊くと縮んで固くなりますから、サッと煮ます。
エビはくるりと背中が丸くなるところから長寿の象徴です。
エビのように腰が曲がるまで長生きできるようにとの願いが込められています。



〈蒸し海胆〉
北海道の馬糞ウニを塩蒸しにしました。
先の緊急事態宣言の時にはウニの値が暴落。
一気に需要が減り、相場の半値以下まで落ち込みました。
しかし年末には恐ろしい価格に。
本来の高級品に戻りました。
ウニにサッと塩をして木箱のまま蒸し器で蒸します。
元々濃厚なウニの旨味がさらに凝縮されます。



〈鮑の柔らか煮〉
活けのやや小型の鮑をサッと洗い、酒と大根でコトコト煮ました。
強火ですと身がしまって固くなります。
極弱火で約3時間、肝ごと煮ます。
炊けたら殻から身を外し、鍋に戻して薄味でサッと煮ます。
いつもは蒸し器で蒸すのですが、今回は少し食感が欲しかったので炊いてみました。



〈渋皮栗〉
今年は山口県の岸根栗が入荷しました。
日本で最後に出てくる和栗で、特別粒が大きいのが有名です。
今回は4Lサイズの超大粒。
渋皮が傷つかないよう丁寧に鬼殻をむき、何ども湯がいて丁寧にシブを抜きます。
渋抜きできたら味つけをし、ゆっくり味を含めます。
大きすぎてお重に入りませんので、カットして盛り込みました。



〈水晶銀杏〉
愛知の藤九郎が入荷。
藤九郎は通常のギンナンの約2倍も重量があります。
ギンナンの鬼殻を割り、更に薄皮もむきます。
酒と水に塩をきかせて、中火で炒り煮にします。
ほとんど水気がなくなるまで煮込み、ふっくらと炊き上げます。
炊き上がった時は正に水晶のように輝いています。
素朴な料理ですが、ギンナンの旨さが爆発します。



〈菜の花〉
早春の菜の花をサッと塩茹でにしてお浸しにしました。
菜の花の花言葉は「快活」「明るさ」「豊かさ」「小さな幸せ」などです。
ちょっとほろ苦い菜の花を含めば春の予感がし、小さな幸せを感じます。

〈鰻冊〉
愛知のウナギを山椒を使って蒲焼きにし、浅漬けのズッキーニと和えました。
うざくをイメージし、一品としました。

〈叩き牛蒡〉
春ゴボウをサッと洗い、軽く叩いてアク抜きします。
煎った白ゴマをすり鉢で荒摺りし、味付けします。
食感を残して熱湯で湯がき、水切りしたら熱々をゴマで和えます。
一晩寝かして味を染ませてできあがりです。

〈一寸豆〉
走りの空豆をさやから出してサッと塩茹でします。
陸上げして寒風で一気に冷まします。
ちょっとしたおつまみになりますし、色が綺麗なので入れています。

〈絹莢〉
絹さやも年末には高くなります。
スジを取り除き、サッと湯がいて水切りします。
そのまま旨出汁に漬けて味を含めます。
シャキッとした食感と甘みは侮れない絹さやです。

〈梅人参〉
季節限定の金時人参をねじ梅に包丁し、梅干しと供に煮つけました。
梅形に梅味で春が感じられる一品です。

〈紫芋茶巾〉
中が紫の薩摩芋、パープルスイートを蒸して皮をむき、甘みをつけます。
潰して裏ごして茶巾にしぼりました。

〈鰆味噌柚庵焼〉
山口で水揚げされた巨大な寒鰆。
物も最高でしたが値も最高です。
身を厚めに切り、味噌と醤油、酒、ミリン等に柚子の輪切りを入れて3日間漬け込みます。
焦げないようにじっくりと焼き上げました。
やはり大きな鰆は脂のり、旨みが違いますね。



〈天鰤幽庵焼〉
氷見(富山)の天然ブリを酒、醤油、ミリンに漬け込みじっくりと焼きました。
養殖物が多いブリですが、やはり巨大な天然物はミラクルな美味しさがあります。
ブリという魚はこんなにも美味しかったのか?と思い直す凄みがあります。



〈鶏松風〉
鶏肉のミンチに山芋や卵等を練り合わせてオーブンで焼いたものです。
天にふる芥子の実が「うら寂しい松風」と、なんとも風情があります。
ちなみに松風とは海岸に吹く風のことです。

〈厚焼き玉子〉
こだわりの卵に白身魚のすり身と山芋をたっぷりと混ぜて焼いた一品。
贅沢な卵焼きといった感があります。

〈真鯛の生寿司〉
活けの明石の天然真鯛を三枚に下ろし、皮目に熱湯をかけて松皮作りに。
そのまま酢に漬けてキズシにします。
おせちは保存食ですのでお刺身は入れれません。
サッと酢で締めて保存性を良くします。



〈狭腰の生寿司〉
サゴシとは鰆の幼魚で関西のお正月には欠かせません。
舞鶴のサゴシを三枚に下ろし、ベタ塩をして身を締めます。
それから加減酢に半日漬けてキズシにします。
サゴシは幼魚なので皮ごと食せます。



〈小鮎南蛮漬〉
和歌山の小鮎をカラリと揚げて南蛮漬けに。
モロコか本シシャモの南蛮漬けを入れたいと考えていたところ、小鮎が手に入りましたのでやってみました。
川魚は腹が弱く、そのまま揚げたらお腹が割れてしまいます。
まずは一度素焼きして、それから油で揚げます。
骨まで食せるようじっくりと揚げて南蛮酢に漬け込みます。
爽やかにミョウガの甘酢漬けも盛り込みました。



〈酢蓮根〉
阿波レンコンの皮をむき、厚めに切ってサッと湯がきます。
そのまま甘酢に一晩漬けて味を含めます。
リッチな料理が多いおせちですが、さっぱりとした酢の物がお口を引き締めます。

〈新筍〉
私が絶対に入れたいのが新物の竹の子です。
今年も数が少なく、八百屋さんに無理を言って集めてもらいました。
できれば中国産や缶詰、パック物は使いたくないので産地はバラバラ。
お値段もビックリしましたが、しかし何とか確保できました。
竹の子は水分が多いので、薄味の出汁で二度炊きして味を含めます。
一足早く春を噛みしめる早堀りの筍です。





〈冬菇椎茸〉
煮物にはやはり干し椎茸ですね。
身が厚い原木栽培の干冬菇(どんこ)。
冷たい水でゆっくりと戻し、長時間煮込んでしっかりと味つけします。
冬菇は椎茸としてはかなり高価ですが、美味しいものですね。



〈芽慈姑〉
クワイは芽の出る縁起物でおせちには欠かせません。
しかし中国産が多く、国産は年々少なくなり高価になります。
なぜか見た目は中国の方が良いのですが、食べたら一目瞭然です。
六方にむき、くちなしの実で色付けし、じっくりと煮込みます。
梅人参や慈姑は剝くのに時間がかかります。



〈日の出人参〉
初日の出を思わせる金時人参。
輪切りにした人参を出汁で煮含めます。

〈海老芋〉
冬限定の海老芋は緻密で美味しいですね。
私は静岡の海老芋を好んで使います。
アク抜きした海老芋を出汁で柔らかく煮含めます。



〈本手延蒟蒻〉
昔ながらの製法でつくられたコンニャクです。
炊き合わせには蒟蒻も欠かせません。
懐かしい食感が味わえる昔蒟蒻。
蒟蒻は味が染みにくいので約3時間煮込みます。
おせちの煮物は日持ちがするように、酒を多く使って時間をかけて炊いています。

〈蓬麩〉
生麩は色味が欲しいのでよもぎにしました。
一度油で揚げてコクを出します。
生麩はサッと煮て一晩味を含めます。

〈堀川牛蒡〉
ゴボウの王様、堀川牛蒡。
約1kgもある太いゴボウは凄みがあります。
たわしでゴシゴシ洗って土を落とします。
ある程度の長さに切り、米ぬかを入れた熱湯で柔らかく湯がきます。
食べやすい大きさに切り、じっくり炊いて味つけします。
牛肉やすり身を詰める時もありますが、シンプルなゴボウも美味しいものです。



〈鯛の子〉
鯛の子を食べやすく切り水にさらして血抜きします。
丸く整形して湯通しし、水切りします。
出汁に酒をきかせ、約3時間煮て味を含めます。

〈棒鱈〉
真鱈を天日で干した究極のスローフード。
特に関西で珍重されますが、今の若い方はあまりご存知ないかと。
約半月、毎日米の研ぎ汁を取り替えて柔らかく戻します。
二三度、熱湯で湯がいて完全に戻して味つけします。
乾物ですから味が入り難く、時間をかけて煮含めます。
生にはない独特の食感は当店でも人気があります。
しかし高価で1匹1万円以上もします。



〈鳴門穴子〉
鳴門とはぐるぐる丸く巻くからで、鳴門産というものではありません。
しかし関西では多くが瀬戸内産。
韓国産も多いのですが、今回は泉州のアナゴを使いました。
泉州の穴子も良いですね!
肉厚で非常に柔らかく、とろけるような身質です。
下処理した穴子をぐるりと巻いて紐で留めます。
紐がほどけないよう、弱火でじっくり炊いていきます。
炊けたら冷まして半分に切ります。



〈白魚香梅煮〉
冬の白魚を梅を裏ごした薄味の出汁で静かに煮ます。
身が柔らかな白魚は踊らせるとボロボロになります。
炊けたらザルに上げ、静かに乾かします。

以上。

今回も沢山のご注文をいただきありがとうございました。
普段は扱えない高級食材に囲まれて心躍りました。
以前営んでいた料理屋のことも思い出しながら料理できた至福の時間をありがとうございました。

※すみません!
できるかぎり食材の写真を撮ろうと思っていたのですが、余裕がなくなり難しくなりました。
あけましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

例年ですと一日か二日に更新するおせちの料理解説ですが、今年は少々遅れてしまいました。
大変申し訳ありません。
簡単ではございますが、以下解説です。



[黒豆]
飛切極上の黒豆を一晩水に漬け戻します。
割れた豆は取り除き、約半日炊きます。
柔らかくなったらそのまま一晩冷まし、あくる日に水を入れ替えてまたコトコト炊きます。
砂糖を少しずつ投入し、徐々に甘みをつけ、最後に少量の醤油を入れて馴染んだら火を止めます。
当店では黒く炊くために鉄鍋を使っています。
この鍋は一年に一度、黒豆を炊く為だけに使用します。
昨今は圧力鍋で手早く炊く方も多い様ですが、時間が美味しくしてくれます。

[干数の子]
北海道留萌でとれたニシンの卵を加工した純国産の数の子です。
しかも主流の塩数の子ではなく昔ながらの干した数の子を使用。
今回は四特だったので、1本が大体3千円します。
約一週間、米の研ぎ汁を毎日替えて戻し、掃除して酒で洗って出汁に仮漬けします。
翌日出汁を入れ替えて本漬けします。
数の子は加熱しませんし、水分が多いのでこうして二度漬けします。
独特の食味は干し子だけが持つ世界です。



[伊勢海老酒煮]
活けの伊勢海老を氷で締めてひもで縛り、たっぷりの酒で煮ます。
炊けたらザルに取り、冷まして出汁に漬けます。
翌日、頭と身に分け、食べやすく切ります。
今年は少し大きく、頭は別付けしました。



[車蝦]
活けの車エビの背わたを取り、ヒゲを落として艶煮にします。
こちらはサッと炊いて身が縮まらないように。
生きたエビは勝手に背が丸く炊けますが、死んだエビを使う場合はあらかじめ楊枝で留めて炊いて下さい。



[鮑筑前煮]
活けのアワビを3時間酒蒸しにして柔らかくします。
人参、ゴボウ、レンコン、コンニャクとアワビを筑前煮風に。
非常に時間のかかる筑前煮です。



[唐墨]
近海物のボラの卵巣を塩漬けにした珍味です。
一切れが約千円する高級品はお正月ならでは。
ねっとりとして風味が豊かな最高の酒の肴です。

[イクラ]
鮭の卵を醤油漬けに。
今年も鮭は不漁でした。
プチプチとした食感は幸せになります。



[蒲鉾]
久方ぶりにいづ萬さんのかまぼこを入れました。
蒲鉾は買うからいらないと言う方もおられますが、やはり老舗の蒲鉾は少し違います。
お魚をたっぷり使った京都で一番の老舗の蒲鉾はいかがでしたでしょうか。

[菜の花]
早春を告げる菜の花はまだこの時期は高価です。
足の早い菜の花は一番最後に仕込みます。
掃除して洗いサッと湯がきます。
ザルに取り、寒風で乾かして薄味の出汁に漬けます。

[叩き牛蒡]
細めの土ゴボウをサッと洗い、酢水で湯がいてアク止めします。
すり鉢ですった煎りゴマを調味し、熱々の湯がきたてのゴボウを入れて和えます。
そのまま一晩置けばできあがりです。

[焼き芋金団]
安納芋を炭火で焼き、皮をむいて粗くほぐします。
栗は甘露煮にして粗く潰し、安納芋と混ぜます。
鍋に入れて湯煎し、少量の砂糖と塩で味付けします。
焼き芋独特の香ばしさはいかがでしたでしょう。



[銀杏]
藤九郎の3Lサイズは日本一のギンナンです。
鬼殻を割り、薄皮をむいて下処理します。
あとは酒と塩で炒り煮にすれば水晶銀杏の出来上がりです。

[空豆]
一寸豆を塩茹でにし、お歯黒に切れ目を入れます。
黒豆は黒く日焼けするほどマメに働けるようにとの祝い肴ですが、空豆はお多福豆で福が来るようにとの願いがあります。



[鰆味噌漬]
今回は一本釣りのサワラが入荷。刺し身にできるほどのものは珍しい魚です。
サワラを下ろし、切り身にし、西京味噌に3日間漬け込みます。
炭火で焼けば香ばしくて美味しくなります。

[サーモン幽庵焼]
サーモンを切り身にし、酒とミリン、醤油の地に漬け込みます。
炭火で焼き、炙りながら照り焼きにしました。

[穴子山椒焼]
近海物のアナゴを開き、山椒醤油で焼きました。
いつもは鳴門煮にする穴子ですが、今回は焼き物にしました。

[厚焼き玉子]
こだわりの卵「蘭王」を使いました。
卵に魚のすり身、山芋などを混ぜてオーブンで焼きました。
厚切りの卵焼きは贅沢な一品です。



[鯛の生寿し]
近海物の天然の真鯛を上身にし、薄塩を当てて適度に水分を抜き、皮目に熱湯をかけて松皮にします。
柔らかい酢に数時間漬ければキズシの出来上がりです。
おせちに生魚は入れられませんので、お刺身代わりの一品です。



[狭腰の生寿し]
サゴシとはサワラの幼魚です。
皮ごと食すキズシは皮が薄いサゴシの方が向いています。
鯛と同じく上身にし、こちらは強塩を当ててしばらく置きます。
塩を洗い落とし、甘酢に約半日漬け込みます。

[サーモン蓮根]
レンコンの穴は先を見通す縁起物とされます。
レンコンを薄切りにし、サッと湯がいて甘酢漬けに。
スモークサーモンを酢蓮で巻けばサーモンレンコンの出来上がりです。
酢蓮とサーモンは相性が良いですね。



[海鼠]
見た目ナマコはグロテスクですが、食べれば美味しいものです。
伊勢の赤ナマコを買いましたが、ナマコ離れしたお値段でびっくりしました。
ナマコを下処理し、茶ぶりにして柚香酢に一晩漬けます。
本来、柚香酢には柚子を使いますが、庭のレモンを使いスダチをそえました。
生ならコリコリとした食感ですが、火を通すとまた違った感じになりますね。



[新筍]
今回は竹の子が不作でかなりの高値でした。
中国産でも少なかったようです。
この時期に使おうとするのがいけないのか、それでも毎年入れている竹の子は諦められません。
竹の子をアク抜きし、食べやすく切り、薄味で煮ます。
一晩置き、次の日出汁を入れ替えて再度炊きます。
竹の子も水分が多いので、水分と出汁を入れ替えて薄味をじっくりと含ませます。

[椎茸]
今年は巨大な香信(こうしん)を使いました。
いつもは甘辛い甘露煮にしますが、今年は旨煮にしました。
椎茸本来の風味と旨みが出たかと思いますが、皆さんはどちらがお好みでしょうか。

[慈姑]
芽が出る縁起物とされるクワイもここずっと高値です。
クワイの芽を落とさないように(すぐ折れます)皮をむき、水にさらしてクチナシの実で色付けして煮含めます。
中国産のクワイは苦みが強いようです。
その場合は長時間水や米の研ぎ汁に漬けたり、油で揚げると食べやすくなります。

[梅人参]
金時人参を梅の型で抜き、乱切りに切って炊きました。
いつもはねじり梅にむきますが、趣向を変えてみました。



[鯛の子]
これも高くて閉口しました。
鯛の子を切ってさらし、生姜を入れた甘めの出汁で煮付けました。
生の魚卵は今だけの食材です。



[玉蒟蒻]
昔の製法で作られた昔コンニャクです。
噛めば歯ごたえがあり、コンニャク本来の旨みがあります。
コンニャクも最近は軟弱になりましたね。

[堀川牛蒡]
太く長い堀川ゴボウ。
土を洗い流し、輪切りにして柔らかくアク抜きします。
今度は出汁で炊き、中心の穴に和牛の時雨煮を射込みます。
お弁当には肉類を入れませんが、おせちには時々入れています。



[棒鱈]
真ダラを開いて寒風に干したものです
米の研ぎ汁を毎日取り替えて約半月かけて柔らかく戻します。
食べやすく切り身にし、凧糸で縛り、酒をたっぷりと使って旨煮にします。
ハラハラとした身は当店でも人気のメニュー。
その手間ひまから献立から外したいのですが、難しいのが現状です。

以上。
年末は暖冬で心配が尽きませんでした。
食材もかなり値上がりし、やりにくい年でした。
当店のおせちはほとんどがリピーターの方で大変ありがたく思っています。
今回も沢山のご注文をありがとうございました。
新年あけましておめでとうございます。
旧年中はご贔屓にあずかり本当にありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

今日は年末の疲れも少しとれ、お雑煮を食べ終わったところです。
雑煮は男が作るものとはいわれますが、我が家でも私が担当します。
おせちがありますから、出汁に焼いた丸餅に鰹の削り節のみのシンプルなものです。
毎年ですが三が日が一番ホッとする時間です。

で、今回もおせちをお買い上げいただき誠にありがとうございました。
御献立はお付けしておりますが、この場をかりて少し解説したいと思います。


平成三十年おせち献立



【干数の子】
今年は十分な干し子が確保できました。
硬く干した乾物の状態のものを、米のとぎ汁を毎日替えて約一週間かけて戻します。
大きさは3倍ほどに膨らみ、塩蔵品とは比べ物にならないほどの弾力が生まれます。
戻した数の子を酒で洗い、出汁に二度漬けします。
数の子は傷みやすいので酒をきかせてあります。
かの北大路魯山人も「数の子は音で食うもの」と申しましたが、この数の子を味わえばそれも納得がいきます。



【黒豆蜜煮】
京丹波産の極上品を時間をかけて煮含めます。
コトコト弱火で三日間ほど炊き柔らかく仕上げます。
親指と薬指で挟み簡単に潰れる位に・・、または壁に投げつけてペチャっとひっつく位に柔らかく煮ます。
それから蜜に仮漬けし、一日置いて蜜を入れ替えて本漬けします。
昨今は圧力鍋を使って短時間で仕上げる方もいますが、時間が美味しくしてくれる料理もあるかと思います。



【蒸し海胆の炙り】※三段のみ
今が旬の昆布森(釧路)産の蝦夷馬糞海胆(えぞばふんうに)。
真昆布で挟んで塩をして蒸します。
上がりにバーナーで炙り、更に香りを引き出します。
昆布森産の海胆は箱折り5000円はする高級品です。



【唐墨】
お正月といえばカラスミです。
鯔(ぼら)の卵巣を塩漬けにした後に天日で干したものです。
以前は店で作った時期もありますが、空気の汚れた都会ではやはり難しい。
自家製の数倍はしますが、今は信頼のおける専門の業者から仕入れています。
日本近海でとれた鯔の卵を海風と天日で干した200gの極上物です。
カラスミは大きければ良いというものではありません。
粒子が粗くなりますし、逆に小さいと物足りない・・
150gから200gくらいがよろしいのではないでしょうか。



【紅鮭燻製蓮巻】
スモークしたサーモンにもいろいろあります。
特に多いのがトラウトです。
トラウトは虹鱒(ニジマス)を海で養殖したもので、手頃な価格が人気です。
ただ味の面では難アリで、当店では天然紅鮭のスモークサーモンを仕入れています。
レンコンを薄切りにして甘酢に漬けて酢レンコンを作ります。
そのレンコンでスライスしたサーモンを挟んだもので、濃厚なサーモンも爽やかに食せます。

【イクラ醤油漬】
今年は鮭が極端な不漁で筋子も高騰。
例年の2倍以上に跳ね上がりました。
北海道を筆頭に、岩手、北米産と安くなります。
北米産が安いとはいっても、昨年の国産よりも高値です。
当店では北海道産を、今年は醤油漬けで盛り込みました。

【鮑蒸し煮】
以前は三段重のみだったアワビも、今ではすべてに入れています。
活けの鮑を塩洗いし、酒と昆布、大根と一緒に5時間蒸し煮にします。
煮汁を漉し、調味してさらに煮て仕上げます。
硬い鮑も美味ですが、時間をかけて加熱すると柔らかくなり食べやすくなります。



【炙り伊勢海老昆布〆】※三段のみ
伊勢海老の身をはずし、バーナーで炙って昆布で締めます。
1日置くと水分が飛んで濃厚になります。
ほのかな昆布の香りと海老の甘みは美味しいものです。



【車海老甘酒煮】
車海老を掃除し、たっぷりの酒と甘酒を使って煮たものです。
やさしい甘みと食感はやはり一番美味しいといわれる海老ですね。



【海鼠このこ和え】※三段のみ
海の鼠と書いてナマコ。
伊勢の赤ナマコを掃除し、柚香酢に漬け、このこ(ナマコの卵巣)で和えたものです。
もう少し薄く切ろうかとも思いましたが、時間を考えてやや厚めに・・
元日の朝では若干硬かったかもしれません。



【栗金飩】
今年は潰して栗きんとんに・・
いつもは渋皮煮にするのですが、今回の銀寄はあまりに大粒で重箱に入りません。(汗)
そこで今年は趣向を変えてみました。
栗を湯がいて裏ごしし、砂糖のみで味付けします。
素朴なものですが、栗本来の風味とコクを味わっていただけたかと思います。



【菜の花お浸し】
昨年末は野菜が高騰。
予定していた空豆も入荷がゼロで、絹サヤもほとんど無し。
辛うじて菜の花は確保しましたが、あまりに高額で躊躇しました。
菜の花の茎を落とし、サッと湯がきます。
旨出汁に漬けてお浸しに・・
痛みやすいので少し酒をきかせます。

【叩き牛蒡】
春ゴボウを半分に切りサッと湯がきます。
煎りゴマとカシューナッツをすり鉢ですり調味します。
そこに茹でたゴボウを入れて和えます。
しばらく漬け込んだらできあがり。
風味と食感が美味しい一品です。



【千代呂木】
不思議な根菜のチョロギ。
毎年お客様のお母様が栽培して下さいます。
普通は酢の物ですが、今回は塩茹でにして叩き牛蒡と和えました。

【花甘藍塩蒸し】
漢字にすればハナカンラン(カリフラワーの和名)です。
このカリフラワーもびっくりの1つ800円!
食の世界に身を置き30年以上になりますが、こんなに仕入れに苦労した年も記憶にありません。
カリフラワーを小房にし、塩をして蒸しました。
サラダ感覚の一品です。

【鰆柚庵焼】
1メートルはあろうかと思う本サワラ。
今は最も脂がのり、身も締まって刺身でも食せる品質でした。
鰆を厚めに切り、柚子を入れた幽庵地に数時間漬け込みます。
水気を切り、串に刺して炭焼きにします。
お味は上品にし、魚の旨みを味わっていただけたかと思います。



【鱒西京焼】
脂ののったマスを白味噌に漬け込み炭火で焼きました。
鮭よりも脂があり、ほのかに香る白味噌は食べ応えがあったかと思います。



【貝柱粕漬け焼】
帆立の貝柱を吟醸酒の酒粕に漬けて炭火で焼きました。
貝柱の甘みを感じる一品。
ほのかな酒粕の香りもご馳走です。



【厚焼玉子】
昔卵の卵黄にハモのすり身を混ぜて焼き上げた、かなり豪華な厚焼き玉子。
色は自然の黄身の色ですから驚きです。
濃厚で食べ応えがある大変贅沢な玉子焼きです。

【鶏松風】
地鶏のミンチに魚のすり身を入れ、調味してオーブンで焼いた松風。
こんがりとして重量感があり、人気の一品です。

【蓬麩照り焼】
蓬麩を薄味で煮含めて一晩置きます。
串を刺し、炭火で照り焼きにして仕上げた精進料理。
コシのある食感とよもぎの香りは春を感じさせてくれます。



【真鯛の生寿司】
真鯛もにらみ鯛の需要から年末には高騰します。
特に型のいいもの(1~1.5kg)が人気で、当店もそのくらいのものを求めます。
今回も近海天然物の良い鯛が入荷してホッと一安心でした。
鯛を松皮作りにし、酢で締めてキズシにします。
鯛の持ち味を生かす為にほとんど味付けはしないので、物足りない方にはお醤油を勧めています。



【狭腰の生寿司】
サゴシとは鰆の幼魚です。
皮ごと生食しますので、皮の薄い狭腰を使います。
こちらは酢を調味し、ある程度の味付けをします。
漬ける時間は鯛の約4倍で、しっかりと漬け込みます。
関西のお正月には欠かせない一品です。



【本柳葉魚南蛮漬】
当店のご飯でもシシャモというと軽く見られがちです。
一般に流通している柳葉魚とは、実は本当の柳葉魚ではなく樺太シシャモ。
今回使ったものは本物の柳葉魚で希少な高級魚に属します。
柳葉魚をサッと焼き、南蛮酢に一晩漬けます。
特にクセのない魚でどのように調理しても美味。
もっと沢山の方に理解されれば良いのですが・・



【二十日大根甘酢漬】
年末は雑煮大根も品薄で、近年まれに見る不作でした。
いつもはカブを使うのですが、今年はかわいいサラダ大根を使用。
皮むきして塩をして柔らかい甘酢に一晩漬けます。
爽やかで濃い味の料理の箸休めにもなります。

【新筍土佐煮】
出てくるのが遅くずっと心配でした。
今回は希少な合馬(北九州)産を買うことができました。
やはり土が違いますね、合馬は。
筍をたわしで洗い、糠で湯がいてアク抜きします。
そのまま一晩置き、皮をむいて水にさらします。
まず一度目の出汁で炊きそのまま冷まします。
翌日出汁を入れ替えて二度炊きします。

筍の水分と出汁をすべて入れ替えて、薄味でも日持ちするようにします。
かなりの薄味で驚かれた方もいたでしょうか。
私は特に筍には思い入れが強く、出汁と酒に極少量のミリンと醤油のみで調味します。
普通に醤油と砂糖を使って濃く味付けしては筍が勿体無い、と思うのです。
筍の食感と味、風味、えぐ味・・
特に早春のものはアクが強い傾向があります。
えぐ味も美味しさ・・と私は考えています。



【冬菇椎茸甘露煮】
冬菇(どんこ)とは肉厚の原木栽培で作った干し椎茸です。
当店では中型を使用。
冷水で丸二日かけてゆっくりと戻します。
炊く時には戻し汁は使いません。
野暮ったい味になりますし、上等の椎茸はそのままでも美味しいものです。
水と酒で柔らかく炊き、醤油と砂糖で調味します。
煮汁がなくなるほど長時間炊くと、美味しい椎茸煮が完成します。

【芽慈姑旨煮】
芽が出る縁起物のクワイです。
慈姑もお正月だけの限定食材。
こちらも作る方が減っているのか、国産はずっと高値です。
しかし輸入物ではえぐ味や苦味がありますので、やはり国産をお勧めします。
中国産は糠で下煮して油で素揚げするとよろしいかと思います。



慈姑を六方にむき、クチナシの実で色付けします。
水に数回さらし、濃い出汁で旨煮にします。
ホクッとして芋のように美味。
もちろん芽も一緒に食べて下さいね。



【丸十甘露煮】
丸十とは薩摩芋のこと。
丸に十の旗印は薩摩藩のものですが、丸十とはそこからきています。
とはいえ、鳴門金時を使用。(笑)
極小さなSサイズを輪切りにして甘露煮に。
色、味、形とも料理のアクセントになります。

【梅人参】
恐怖の梅人参です。(汗)
なにが恐怖かといえば、むくのに手間暇がかかるのです。
金時人参を梅にむくのですが、肩はコリ腰が痛くなります。
しかし料理に花を添えてくれますので、毎年がんばっています。
むいた人参を下煮し、出汁に入れ替えて梅干しと共に煮ます。
お味は極薄味で・・
小さいながらも存在感はありますね。



【金美人参甘煮】
希少な金美人参を見つけたので衝動買いしました。
岡山の金美人参ですが、色が綺麗ですよね。
本来はサラダ等生食向きで、煮るのは珍しいかもしれません。
上品な食味は人参嫌いの方にも受けそうです。



【銀杏旨煮】
秋が旬の銀杏は毎年入れる食材です。
今年は銀杏までもが不作で、いつも使う藤九郎はクリスマスが終わってやっと出てきました。
例年なら3Lを求めますが、今年は2Lが最大サイズで育っていないとのことでした。
トンカチで鬼殻を割り、更に薄皮をむいて旨煮にします。
もっちりとした食感の生銀杏はやはり美味。
脇役ながら外せません。



【青蕗浸し】
青みに絹サヤを使うつもりがどこも品薄状態で代わりにフキを購入。
地元大阪産の蕗です。
蕗を板ずりし、熱湯で湯がいて冷水にとり、薄皮をむきます。
用意していた八方出汁に半日漬けて青みを生かします。
蕗はあまり炊くと黒っぽくなります。
薄味だと日持ちしませんが、爽やかな味と色、食感は蕗そのものでしょう。

【手綱赤蒟蒻】
そろそろいいかな?と思うのですが、色に釣られて毎年買ってしまいます。(苦笑)
滋賀名産の赤コンニャクは、味は普通の蒟蒻です。(笑)
しかし綺麗な赤色は縁起がいい。
値は高いですが、黒い蒟蒻よりはよろしいのではないでしょうか?



【蓮根いとこ煮】
先を見通す縁起物とされるレンコンの穴に小豆を詰めたおめでたい一品。
どなたからも感想をいただけませんが(涙)、当店では毎年入れています。
普通に炊くよりも断然手間暇がかかります。
また、小豆が中で暴れると蓮根が爆発して使い物になりませんし・・
お味も素朴で、まるで当店の人気がないご飯のようです。(苦笑)

【管牛蒡和牛射込】
太ゴボウをアク抜きし、中をくり抜いて和牛を詰めたものです。
牛蒡は下煮してありますし、牛肉は黒毛和牛を酒と醤油、砂糖で炊いています。
当店で肉料理が入ると驚かれる方もいますが、鶏や鴨などもよく使います。

【棒鱈旨煮】
人気の棒鱈もやはりお正月だけの食材です。
北国の寒風で干した真ダラを半月ほどかけて戻して使います。
ハラリと解ける食感と、一度干すことによって淡白な中にも旨みが出ます。
切り身にし、一つずつ凧糸で縛ります。



出汁と酒を贅沢に使い、二日かけて煮込みます。
昨今は炊く方も少なくなりましたが、棒鱈も関西のお正月には欠かせない一品です。



【穴子鳴門煮】
鶉の卵を芯にしてアナゴを巻いて煮たものです。
今年は魚屋さんの勘違いで巨大な穴子が入荷。
ちょっと困ってしまいました。
あまりに肉厚で巻きにくくて重箱に入るかと心配しました。
少々食べにくかったでしょうが、小さいよりは良かったでしょうか。

【鰊昆布巻】
ニシンを日高昆布で巻き、干瓢でくくって煮付けます。
これも時間がかかる一品。
喜ぶという縁起物ですが、いかがでしょう。



【子持ち鮎山椒煮】
京阪神で作れば有馬煮、京都で作れば鞍馬煮。
まあ山椒煮でよろしいかと。(笑)
夏に掃除しておいた山椒の実を使った甘露煮です。
子持ちの鮎を素焼きして荷崩れを防止します。
鍋に竹の皮を敷いて放射状に並べ、半日かけて骨まで柔らかく煮ます。
山椒の爽やかな香りが鮎に合います。



【酢橘】
スダチもかなり高騰しました。
そのまま食べるものではありませんが、香りとアクセントとして輪切りにします。

以上、四十一品


今回は特に野菜が高騰し、異常な年でした。
仕入れも苦労しましたし、数度のメニュー変更を余儀なくされました。

おせち作りは一品一品に時間がかかり普段のようにはいきません。
ただ毎年、皆さまに喜んでいただけますので、ここまで続けてこれました。
来年(年末)のことをいうと笑われますが、もうご予約もいただいております。
今回もご注文及びご賞味いただきありがとうございました。

今年も皆さまにとって良い一年になるようお祈り申し上げます。
また、しきしきごはんも変わらずに、どうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。

尚、当店は9日(火)からの営業になります。
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プロフィール
HN:
しきしき
年齢:
16
性別:
非公開
誕生日:
2007/10/08
職業:
料理家
趣味:
料理とお菓子の研究
自己紹介:
以前はこだわりの料理屋を営んでおりましたが、より沢山の方に召し上がっていただきたく、炊き込みご飯と雑菓子の店を本町にオープンいたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

<営業時間>
11:00より売り切れ次第終了

<定休日>
土・日・祝祭日

<所在地>
大阪市中央区久太郎町2-5-18

<電話>
(06)6245-5636

<ご予約>
8:00~11:00までにお願いいたします。
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